彩りが、増す。






「おい、お前聞いてんのか?」
「いい加減うるさいぞ、如月弟」
「だから、弟って呼ぶなって言ってるだろうが」
「なんだ、お前は事実如月の弟なんだから仕方ないだろう?」
「それは……って違ぇだろ」

 下らないやりとりに辟易してきたところで、うっとおしそうだった支倉の顔が、何故か唐突にニヤニヤとしたものへ変わった。
「何が違うんだ? 弟」
 どことなく声が弾んで聞こえる。反応を楽しんでいやがる様子に、チッと舌打ちをした。
「普通に名前で呼べばいいだろうが。弟、弟、連呼すんな」
 お前の弟になった覚えはねえよ、とついでに吐き捨ててやれば支倉は、おや、といった表情になった。そのことにぎくりとするが、もう遅い。彼女の脳内で一体どんな情報処理が行われたのかは知らないが、にやり、と厭らしく深められた笑みを見て、反射的に後ずさった。

「そうは言うが……わからないぞ? 私が姉になれば、お前は弟だ」
「……は?」
「如月兄には、まだ彼女がいなかったな」
「はあああっ!!?」
 腹の底から吐き出した声が、辺りに響き渡る。そんなオレの反応を見て、支倉は楽しげに笑うばかりだ。
 冗談、ではあるのだろうが、こいつが言うと冗談ですまされない何か、薄ら寒さが付き纏う。
「ふふっ、“義姉さん”と呼んでくれても構わないぞ?」
「誰が呼ぶか!」
 間髪入れれば、途端につまらんとでも言いたげな表情をして、そうかお前は義姉貴派だったかとか何とか呟いたので、そういう問題じゃねぇ! と返しておいた。
 大体、律が支倉なんぞを選ぶわけがない、と思ってから、そういう問題でもないな、と自身につっこんでおく。
 ああ、本当にコイツといると疲れる。かなでも、よくこんな奴とうまくやれるもんだと前髪をかきあげたところで、ちょうど細められた目とかち合った。

「お前も……な奴だな」

「はあ?」
 聞き返すが、二度も言う気はないらしい。
「いいや、何でもない」
「そうかよ」
 そっけなく返せば、ああ、とだけ返る。
 わざわざ聞きたくもないが、全く気にならないというわけでもない。いつものしつこさが嘘のように、あっさりと引き下がられると、それはそれで問い質したくなるというか、文句の一つでも言ってやりたくなる。
 結局、口には出来ずに終わるのだけれども。

「ところで話を戻すが、」
「戻さなくていい!」
「そういうな、お前の未来に関わる話だ」
(嫌な予感しかしねぇんだから、いっそすげぇ)
 今の内に耳でも塞ぐか、と思うものの、実行に移す前に話は進む。
「如月兄のお眼鏡に適い……というか、くらいついていける人物となると、やはりお前の義姉になる最有力候補は、小日向かな」
「げ、」
 クソ兄貴と幼なじみの顔が同時に浮かびあがり、顔を歪めた。
 二人とも天然で鈍いとは言え、それはない、と言い切れない何かがあって、げ、のまま固まった唇を引き攣らせる。
 確かに、あの律が誰かを選ぶとしたら、かなでなのかもしれない。今までだったら、まさかな、で済ませられたが、転校し再会してからの二人の様子を思えば、一気に現実味が増してくるものだから、困る。
 言葉もなく黙りこんでいると、支倉は更に楽しそうに続けた。

「もし、そうなれば、私はお前と結婚でもしようか。かなでと姉妹になるというのも、悪くない」
 理解が及ばず、ショート、した。

「幸せにしてやるぞ?」
「ばっ……ばばば馬っ鹿じゃねえの!」
「そう、うろたえるな。ただの冗談だ」
(冗談? 冗談だと!? ふざけんじゃ……っ)
 言おうとしたが、そこまでまくしたてるのも何か違う気がして……というか、軽く流してしまえばいいだけなのに、それが出来ないでいる自分がおかしいのだと鼻で笑われそうで、黙り込む。
 でも――ああ、こんな思い。認めたくはない。
(クソッ)
 これではいつまで経っても、こいつのペースのままだ。ずっとのせられているわけにはいかない。そう、思うのに。
 心は、いつだって思うようにはならないのだ。



「こわい顔だな?」
 支倉の言葉で、我に返る。
「そう怒るな。知っているぞ、お前の好みのタイプは“可愛い子”なんだろう?」
 さも、私とは正反対じゃないか、とでもいうような言い方が、癪に障る。
(お前だって、黙ってれば――)
 そこまで思ってから、慌てて頭を振った。

(あっぶねぇ)
 内心で激しく動揺しながら平静を装い、どこから仕入れた情報なのかは知らないが毎度毎度よくやるものだと呆れた素振りで、だんまりを決め込むことにした。わざわざムキになって否定する内容でもない。
(いいじゃねえか、可愛いのにこしたことはない)
 これ以上からかわれてなるものかと気合を入れなおし、憮然とした表情を貫いていると、支倉が、ふ、と意味ありげな笑みをみせた。
「まあ、幼なじみだというだけあって、かなでがずっと傍にいたというなら感化されてもおかしくはあるまい? ……いや、仕方ないのかもな」
「は? 何言って、」
「かなでと居るのは、心地好いだろう?」
 問いでありながら、決まりきったことのように言うものだから、素直に認められなかった。反発心、とでもいうのだろうか。
 それは、という声が掠れ、反射的に咽喉を鳴らす。

「それは……俺じゃなくて、お前の方だろ」

 改めて言い直した言葉は、自分でも驚くほどしっくりときた。
 支倉は、きょとんと目を丸くし、真意を探るかのようにまじまじとオレを見つめてくる。こちらを窺ういつもと違った雰囲気の眼差しに少々居心地が悪くなってきたところで、猫のような目がゆったりと細められた。
「ああ……違いない」
 いつもの人をからかって浮かべるものとは違って、嬉しさが滲む声だった。パッ、とそこここに彩りが増すような、そんな――。
 どくん、と身体中に血が巡っていくのが、はっきりとわかった。息が詰まる。身体が、熱い。
(っ、これだから、夏は嫌なんだ)
 見当違いなど百も承知で、今はまだそこから目を逸らさせて欲しいと、自身のあずかりしらぬ部分の自分へ向けて、願う。


「……あ、ちぃな」
 話の腰を折る唐突な呟きにも、支倉は気にした様子を見せなかった。まあな、と呟く彼女の中でも、もう終わったことなのかもしれない。
「夏ですから、当然です――だったか?」
 ハルのよく言う台詞をわざと口にする支倉を一瞥して、似てねぇよ、と言って笑う。
 オレと同じように、くす、と笑う他意のない姿を見て、気づけば支倉の名前を呼んでいる自分がいた。
 一つ、呼吸をする間に、静かな目とぶつかる。



 初めて紡がれた“響也”という名は、鮮やかに 色付いていた。






目も眩むよう、な
( これが夢なら、腹を抱えて笑ってやることも出来たの に )
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書いてる内にわけがわからなくなった/(^o^)\いつもだよ! ニア響を投稿するのに二回もフリーズして…直接打ち込んでたニア響の話とはお別れしました(´;ω;`)うっ。まあ、大したネタじゃないからもういいんですが…まあ、それは置いといて、響也のニアに対する第一印象はきっと良かったんじゃないかなと思います。可愛いとか思ってればいい。でも第二印象が最悪とかね(笑)んで、響也がかなでの幼馴染だってわかってからちょっかいかけられ始めて、なんだかんだでケンカ友達になって、かなでに気を許し始めたニアに惹かれればいいんじゃないか、とか考えた。「あれ?こいつってこんな奴だったっけ?」って思った瞬間に恋が始まっちゃえばいいじゃない!\(^o^)/かなでとニアが仲良かったら良いことだって思いながらも、もやもやしてればいい。律かなもいいよね!惜しくも本命ではないですが、正直かなでちゃんが一番可愛いらしいのは律相手の時だと思ってる。ニアとかなでとで本当に義姉妹になればいいのに!

10.05.16

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