「も、ほんと、お前なんなの?」






 片方の手で目元を覆った響也が、呻いた。
 その瞬間に、いつもの単純なやりとりは終わりを告げてしまったらしい。言われ慣れたはずの言葉が、普段とは違う掠れた声で紡がれ、ニアの胸に冷たく響いた。

「……なに、と言われてもな」
 答えようがない、とばかりに返せば、響也は再度呻いた。
「お前の、そういうところが嫌いなんだ」
 指の隙間から覗いた目がつりあがり、睨みをきかせてきたので、ニアは腕を組み、これみよがしに溜息を吐いてみせる。
「そういうところ、とは、どういうところのことだ?」
 ぐ、と息を詰まらせたのが手に取るようにわかったので、響也の答えを待つことなくニアは続ける。
「もちろん、お前は答えられるんだろう?」
 声に含まれた笑みに気づいても、響也は沈黙を保ち、何も言おうとはしなかった。だからニアは言葉を重ねる。彼が反応する言葉を、より、的確に探し出す。

「なんだ、答えられないのか?」
 お前も――と更に付け足したところで、勢い良く響也の顔から掌が引き剥がされた。

「あのなあ!」
 荒げられた声を正面から受け止め、顔に笑みを浮かべたままニアは首を傾けた。
 その姿を見て声を途切れさせた響也は、ああもう、と苛立ちをこめて自身の髪をかき回す。ぐしゃぐしゃと乱れる髪。爪で引っ掻いた額に、時間差で赤い線がのびる。


「響也」


 さすがに見ていられなくなり、声をかければ、響也の手がぴたりと止まった。
 今度は両手ですっぽりと覆われてしまった顔。表情は見えない。
「響也、聞いているのか?」
「…………んだ」
「何だって?」
「っ、だからそういうところが大っ嫌いだって言ってんだよ馬鹿野郎」
 早口で告げられた言葉は、先程よりも随分酷い言葉に進化していたが、ぐしゃぐしゃの髪から覗いた耳が、あまりにも真っ赤に染まっていたので、ニアは笑みを噛み殺して、そうか、と呟くだけにしておいた。



 なんでこういう時だけ――と、恨めしそうに三度呻いた響也の声は、聞こえなかったことにして、ニアはそっと頬を緩めた。






ああいえば、こういう!
( そう言えば、喉が渇いたな )( ……おごらねぇぞ )
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何だかんだいっても、ニアに「響也」って呼ばれると弱いといいって話^▽^ 普段は如月弟。名前呼びは最終兵器なんだ ぜ?(…) それにしても、この二人は会話させたら延々と喋りそうで困る。それだけ気が合うってこry…^^^^ 文章って難しいですね。自分の書き方がよくわからんくなってきました。むむむ。

10.07.05

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